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岳人の、岳人による、岳人のための秘湯――奥多摩・三条の湯
2026年10月23日
岳人の、岳人による、岳人のための秘湯――奥多摩・三条の湯
これまで私は、深い森の中に佇む数多くの「山小屋の秘湯」を訪ねてきた。
そこは、登山を目的としない者を容易には寄せ付けないような場所がほとんどだ。 那須岳の三斗小屋温泉、鳳凰三山登山口の青木鉱泉、八ヶ岳の赤岳鉱泉や赤岳山荘、南アルプスの麓に位置する奈良田温泉・白根館……。どこも感慨深い思い出ばかりだが、東京都民である私にとって、第一に挙げたいのはやはり奥多摩の「三条の湯」である。
それは単に個人的な思い入れだけではない。三条の湯を含む秩父多摩甲斐国立公園が、都心部へ豊かな恵みをもたらし、安全を見守る重要なエリアであることを身をもって体感できる場所だからだ。
金曜の夜、退廃と狂乱の渦にある都心から遠く離れ、漆黒の闇の中に一筋の光を照らし出すお宿――それが三条の湯である。
だが、そこへのアクセスはかなり難儀だ。 一番近いとされる「お祭り」バス停からでも、徒歩で丸3時間はかかる。奥多摩駅からバスに揺られること40〜50分、お祭りバス停で下車した後は、砂利の敷かれた比較的平坦な林道をひたすら真っ直ぐ進んでいく。変化に富んだ道のりとは言い難く、少し退屈さを覚えるコースではあるが、さすがは人気の宿。土曜日の宿泊ともなれば、2ヶ月前には予約でいっぱいになってしまうほどだ。
何がそれほどまでに人を惹きつけるのだろうか。
お祭りバス停の手前にある「鴨沢」バス停からなら、奥多摩駅発・朝7時台のバスに乗れば、雲取山への日帰り往復登山も十分に可能だ。それにもかかわらず、あえて遠回りをしてでも三条の湯に立ち寄りたくなるのは、奥多摩の深山が持つ不思議な魅力ゆえに違いない。
ここへは、山を知らない一般の観光客が「温泉旅行」目的でやって来るようなことはない。 ここは翌朝、東京都の最高峰である標高2017m・雲取山の頂を目指す者たちのための宿なのだ。
夕食には、山小屋でお馴染みの揚げ物やカレーが出される一方で、地の山菜や旬の恵みがふんだんに盛り込まれていた記憶がある。また、トイレを流す水は環境に配慮した循環水を使っており、ほんのり抹茶色をしていて「なんだかとてもエコだな」と感心させられた。
私が宿泊したのは随分と昔のことだから、現在の状況は少し変わっているかもしれない。 それでも、あの深い緑の中で浸かった湯の温もりと、雲取山を目指す岳人たちの熱気は、今も変わらず私の心に残り続けている。